リーマンショック

リーマンショックとは

リーマンブラザーズリーマンショック(Lehman Shock)とは、米国の投資銀行だったリーマンブラザーズ(Lehman Brothers)が破綻し、それを引き金にして世界中で未曾有の信用収縮が起こったことをさします。

   米国では2007年初頭から住宅バブルが崩壊し始めていました。同年8月のパリバショックを機にサブプライム問題が表面化。この影響を受け、多額の資金を金融デリバティブに投資していたリーマンブラザーズは膨大な損失を抱えることになったのです。そして2008年9月15日に事実上破綻。連邦裁判所に倒産法第11章(いわゆるチャプターイレブン)の適用を申請しました。負債総額は約60兆円にのぼり、史上最大の倒産でした(ちなみに山一証券の負債総額はその17分の1程度)。それ以後、世界中の株式市場は下落スピードを加速し、為替相場では安全通貨とみなされた円が急騰。金融市場は大混乱となり、FRBをはじめとした中央銀行はQE(量的緩和策)など非伝統的な対応を迫られることとなったのです。

リーマンショックの裏舞台

   以下は関係者の証言などで明らかになったリーマンショックの裏舞台です。日付は2008年9月。

米政府系金融機関(GSE)のフレディマックとファニーメイが政府の管理下に。
S&Pがリーマンの格下げを検討との報道を受けて株価が急落。
10 水面下でリーマンへの出資交渉を続けていた韓国産業銀行(KDB)が協議を打ち切り。
12 米財務長官ヘンリー・ポールソンが、ニューヨーク連銀にウォール街主要金融機関9社の首脳を招集。リーマンの資金繰りが悪化している状況を説明したうえで「公的資金を使うつもりはない。休日中に解決策をまとめてほしい」と訴えた。
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日米欧当局が電話会議を行い、米国が以下を説明。(1)民間の金融機関と対応を検討中である。(2)モラルハザードを避けるため米政府は公的支援を行わない。
主要中央銀行総裁が電話会議を行い、米国が以下を説明。(1)英バークレイズとンク・オブ・アメリカがリーマン買収を検討中。(2)米財務省は公的資金を使わない。(3)破綻の場合は各国が連携する必要がある。
バンカメはメリルリンチ(米証券3位)の買収に傾斜。一方、米国での証券業務拡大を目論むバークレイズはリーマン買収に乗り気で、青写真も完成していた。損失を抱える不動産部門を分離したうえで約5千億円を出資というもの。資金の一部は提携先の三井住友銀行が拠出する手はずとなった。
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再びウォール街首脳がニューヨーク連銀に集結。最大のハードルである不動産部門の引き受け先について協議し、10数社が総額3兆円強を融資することで決着。交渉成立の報は東京の三井住友にも伝えられた。
英金融庁が時間に余裕がないことを承知で臨時株主総会の開催が必要と表明。結局のところ英政府に買収を承認する意思はなく、計画は水泡に。このとき英政府は、英国民の税金を他国企業の損失処理に投入しなければならない事態と、それに伴う世論の批判を懸念したと考えられる。
G7財務相代理が電話会議を行い、米国がリーマンの破綻を示唆。(1)民間支援の線は無くなった。(2)リーマンはほぼ間違いなく破産申請すると見られる。(3)アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)やメリルリンチへの波及が懸念される。
15 未明にリーマンは米連邦破産法11条の適用を申請し、ほぼ同時にバンカメがメリルリンチの買収を発表した。
16 米政府・FRBは、AIGに最大約9兆円のつなぎ融資を行うと発表。

なぜリーマンは見捨てられたのか

   サブプライム問題が引き起こした金融危機のなかで、米証券会社では預かり資産第5位のベアー・スターンズを米政府は救済しています。リーマンショックの半年前でした。このとき、ベアーの不良資産をニューヨーク連銀が実質的に引き取り、JPモルガンによる買収を後押ししています。また、リーマンショックの直前にはフレディマックとファニーメイを政府の管理下に置いています。さらには、リーマンショック直後には、AIGに公的資金を注入しています。結果的にリーマンだけが政府に見捨てられるかたちとなったのです。どんな理由があったのでしょうか。

   まずベアーを救済したとき、議会が猛反発しました。高額報酬をはむウォール街をなぜ税金で救わなければならないのか、と政府にせまったのです。これは世論でもありました。また、この時点では政府も議会も危機の大きさを見誤っていたのかもしれません。フレディマックとファニーメイについては、半ば政府系機関との位置づけがありますし、規模からして破綻したときの影響は計り知れません。

   そしてAIGですが、実は政府は公的な救済をいったん拒否しています。民間金融機関連合によるつなぎ融資を求めたのですが、交渉は頓挫。AIGは巨大な生損保グループであり、世界中の保険契約者に影響が出ることが懸念されます。結局「大きすぎて潰せない」と判断し、公的支援に動いたとみられています。米証券業界で預かり資産4位だったリーマンなら、影響範囲が比較的限定と考えられたのでしょう。当局は「モラルハザード(倫理の欠如)への懸念」を理由にあげていますが、それだけではなかったということです。

リーマンショックの第2波

   リーマン破綻のあと、米政府は金融機関から不良資産を買いとる金融安定化法案を策定します。その公的資金枠はなんと約70兆円。ところが市場の予想に反して下院がこれを否決してしまったのです(228票vs205票)。これを受けて9月28日の株式市場には売りが殺到し、ダウ平均は777.68ドルという史上最大の下げ幅を記録しました。結局、米議会は10月3日に法案を可決しますが、その後半年間にわたって市場は弱気心理が支配したのです。

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